渉外業務

日本法人が外国支店を廃止する際の登記と決議―日付の整合性に注意

外国支店の廃止にも登記が必要?日本法人が行うべき基本的手続

日本法人が外国に設けた支店を廃止する場合、その支店が登記簿に記載されていれば、廃止の登記を行う必要があります。
この「外国支店の廃止登記」は、国内支店の廃止と基本的な構造は同じで、取締役会決議に基づき、支店廃止日を定めて登記申請を行うのが一般的な流れです。

登記の要否は、商業登記簿上に支店として記録されているかどうかによって決まります。
仮に外国の支店であっても、以前に「◯◯支店設置」の登記がされていたのであれば、その廃止にあたっても、変更(支店廃止)登記をもって公示を完了させることが必要になります。

支店廃止登記の実務的なポイント

登記の前提として、取締役会で以下の2点を決議するのが一般的です。

1.支店を廃止する旨
2.廃止する具体的な日付(◯年◯月◯日付)

この「廃止日」が、実際の登記記録に反映される日付(登記原因日)となるため、
取締役会決議において明確に定めておくことが重要です。
あいまいな日付(「適宜」「後日」など)では申請できません。

また、支店廃止の登記は、本店所在地の法務局および支店所在地の法務局(外国支店の場合は原則本店所在地管轄)で行う必要があります。
したがって、国内支店同様、取締役会での適切な議事録整備と日付管理が、登記手続の前提となります。

外国支店の廃止日はいつにする?登記と実体手続のズレに注意

日本法人が外国支店を廃止する際、登記上の「支店廃止日(=登記原因日)」と、実際に外国での営業活動が終了する日には、ズレが生じることがあります。
このズレは、取締役会決議の内容と実務処理のタイミングが一致しないことに起因します。

実務で起こりやすいパターン

たとえば、ある会社が韓国に設置していた支店を廃止するため、日本の取締役会で「支店を◯月◯日付で廃止する」と決議したとします。
しかし、実際には韓国側の手続(登記・税務・閉鎖届出等)がその日までに完了せず、実務的な支店閉鎖は決議日から数週間遅れて完了するということが起こり得ます。
このような場合、当初決議どおりの「廃止日」で登記申請を行おうとすると、実体と登記の整合性に疑問が生じ、社内・外部(監査・税務・金融機関)からの説明を求められるリスクがあります。

廃止日の決め方で注意すべき点

・「廃止する旨の決議」だけでなく、「いつ廃止するか(廃止日)」を明確に決議する必要がある
・ただし、その日が実務上確実に支店が閉鎖される見込みであることが望ましい
・外国側の処理に時間がかかる可能性がある場合は、廃止日を幅をもたせた形で設定する工夫も検討すべき

たとえば、「◯月◯日から◯月◯日までの間に廃止することとし、具体的な廃止日は代表取締役に一任する」といった決議も、柔軟性を持たせつつ、登記実務に対応できる形式として使われています。
このように、外国支店の廃止登記においては、「意思決定日」と「実務完了日」の時間差に注意し、整合性のある登記申請書類を準備することが重要です。

廃止日が確定しないときの対応—代表者一任という柔軟な決議手法

外国支店の廃止に関する登記では、登記官に提出する申請書に「登記の原因日(=支店廃止日)」を明記する必要があります。
そのため、取締役会決議では具体的な日付を決めておかなければ、登記申請が受理されません。

しかし、外国側の事情(登記制度、行政手続、管轄当局の審査日数など)によって、廃止日を日本国内であらかじめ特定できないことがあるのが実情です。

代表取締役に一任する決議形式

こうした不確定性に対応するため、実務上は以下のような決議文が用いられることがあります。

「韓国支店は、2025年10月1日から10月31日までの間に廃止することとし、具体的な廃止日については代表取締役に一任する。」

このような決議であれば、「期間の中で廃止日を決定する裁量」を代表取締役に委ねることができるため、
外国での閉鎖手続完了後に確定日を登記原因日として申請することが可能になります。

登記官の取扱いとリスクヘッジ

登記官によっては、この形式の決議について補足説明や資料を求めることがありますが、
「一任範囲が明示され、日付の確定根拠が明らか」であれば、通常は登記原因日として受理される実務が定着しています。

とはいえ、次のような点には注意が必要です。

・期間を長く取りすぎない(原則1か月以内が望ましい)
・議事録上に“一任の範囲”と“理由”を明示する
・決定日を後で補足資料として記録しておく(社内控え)

柔軟な一任決議は、外国支店の実務処理と日本の登記制度との橋渡しとなる手段です。
制度上許される範囲での工夫として、登記申請の精度を高めるために積極的に活用されるべき方法といえるでしょう。

支店廃止登記における補正リスクと実務対応のまとめ

外国支店の廃止登記は、表面上は単純な「変更登記」に見えますが、実体手続とのズレや書類記載の不備によって補正が発生しやすい分野です。
特に「廃止日」の取り扱いに関しては、外国法制や現地手続との連動が求められるため、国内支店よりも調整が複雑になる傾向があります。

よくある補正原因

・取締役会議事録に「廃止日」の明確な記載がない
・議事録と登記申請書に記載された支店名称や所在地が不一致
・廃止日を事後的に記入したことが明らかで、決議日と整合しない
・外国当局による手続完了を根拠にした日付であることが説明できない

これらの問題は、登記申請の際に申請人が意図していなくても、補正指示につながる原因となります。

実務対応のポイント(再整理)

1.廃止日は決議時点で「特定または特定可能な形」で決める
 ┗ 明確な日付 or 一任形式で期間を限定
2.外国支店であることを踏まえ、現地手続の進行状況を事前に確認
 ┗ 外国当局での登記抹消・届出日などとの整合をとる
3.申請書・議事録・定款(必要に応じ)に記載された支店名称・所在地を完全一致させる
4.不明確な場合は、登記前に法務局へ事前照会または書面照会を行う

登記と現地実務の間にある「見えない段差」に気づくことが肝要

外国支店の廃止登記は、単なる形式手続ではなく、登記制度と国際実務の接点であるがゆえの調整力が問われる場面です。
意思決定・登記原因日・現地実務の間にある“見えない段差”に先回りして対応することで、補正ややり直しを防ぎ、スムーズな撤退プロセスが実現できます。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、日本法人が外国支店を廃止する際の登記と決議―日付の整合性に注意について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)、渉外業務に関するご依頼、ご相談は、千代田区の司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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